電脳遊戯 第17話


スザクの部屋にやってきた忠義の騎士と不死の魔女は、とりあえず暴走騎士を床に座らせ、腕を組んでその姿を見下ろした。

「何なんですか一体?」

スザクは、眉尻を下げ困惑したような表情で正座をし、そう口にした。
C.C.だけなら絶対にこんな状況を受け入れはしないのだが、ルルーシュに忠誠を誓っているジェレミアがいるため大人しく従っている。

「何ですかじゃない。お前、どういうつもりだ?」
「なにが?」

何の話?と言いたげにスザクは首を傾げた。
きょとんとした表情で言われると、こちらが勘違いして責めているように思ってしまうが、騙されてはいけない。
この男はラウンズとなってから、こんな幼い表情などしていないはずだ。

「・・・いい性格だなお前」
「このぐらいじゃなきゃルルーシュの友達やってられないって言っただろ?」

そう言いながらおどけた幼い表情を消し去り、目をスッと細め口元に笑みを乗せた。
穏やかな好青年から、冷たい空気を纏ったラウンズに。
一瞬で空気を変えたスザクに、ジェレミアが驚き目を見開いた。
元首相の息子というだけで風あたりは強かっただろう。だからこそ、俺様な性格だったスザクは従順でおとなしい、まるで子犬のような愛らしさをもつ少年に変わった。
それが自然と身についたスザクの処世術の一つなのだろう。
だが、今のスザクは完全に開き直っており、大人しい自分と俺様な自分を使い分けるだけのずる賢さを見せ始めていた。
ルルーシュだけはきっと気づかないだろう、スザクのこの狡さに。

「この、二重人格騎士が。言っておくが、お前がさっきまでいたあの空間でルルーシュに言っていた言葉の意味に、アイツは一切気づいていないから、全て無効だ」
「え!?なんで!?」

スザクは思わず抗議の声を上げた。

「なんでじゃない!ちゃんと伝えたからな、ジェレミアが証人だ」

僕はそのつもりで言ったんだよ?気づかない君が悪いんだ。などという手は使えないからな!!

「・・・ああ。私が証人となろう。枢木卿、あの言い回しで陛下を・・・などと、卑怯だとは思わないのか?」

C.C.がいなければ、少し違和感がある程度の会話にしか聞こえなかった。
C.C.の解釈が正しいのであれば、このスザクはとんでもない爆弾発言をルルーシュに落とし続け、そのすべてをルルーシュが受けた、と思っているらしい。
そんなこと許す訳にはいかないと、ジェレミアは釘を差した。
曲がったことが嫌いで、欲しいものは正攻法で手に入れるだろうと思っていたスザクに裏切られた気分なのだろう、ジェレミアのスザクを見る目は冷たい。

「過程に意味などありません。大事なのは結果です」

スザクは真剣な顔で断言した。

「お前が言うのかそのセリフ」

散々過程が大事だと騒いでたのは何処の誰だ。
C.C.は思わず睨みつけながらそう言った。

「もうやめたんだ、過程を重視するのは。だって結果がついてこなければ意味が無いじゃないか」

とっくに過程なんて意味ないって悟ってるよ。
スザクが呆れたような顔で言ったのでC.C.は思わず握り拳を作り、そのくるくる頭に拳を振り下ろしたが、やはりそこは運動神経の塊。あっさりとその拳をかわした。

「避けるな」
「なんで君に殴られなきゃならないんだよ。これは、ごく普通の体を持つ僕とルルーシュのプライベートな問題だろう?不老不死の君には一切関係ないことじゃないかな」

スザクはけん制するような視線でC.C.を見た。

「残念だが、私とルルーシュは将来を約束した仲だからな。関係は十分あるし、なによりルルーシュはゼロレクイエムが終わればその命を終える。今更アイツに愛を語ってどうするつもりだ?アイツに未練を残させる気か?」

ルルーシュにとってスザクは特別な存在だ。
ナナリーを失った悲しみで感情が麻痺している所に、自分を恨んでいるはずのスザクが甘い言葉など語り始めたら、ころっと落ちる可能性は否定出来ない。
失ったはずの友情・・・いや、友情以上の愛情を向けられるのだから。
愚か者め。
C.C.は冷たい視線をスザクに向けた。
ルルーシュが死を見つめ始めた時に、C.C.は自分の死を諦め、ルルーシュが安らかに死ねるようにと祈り続けていた。
遺体はジェレミアが回収し、人知れず埋葬することとなり、C.C.は暫くの間ジェレミアとともにその墓守をすることも決定している。
人としての感情を無くしていたはずの魔女は、魔王と出会い人としての感情を取り戻してしまった。
だから、その魔王を失った悲しみが癒えるまで、墓を守る。
死を迎える魔王の心を揺さぶること無く、望み通りの舞台を整え、彼の願いを叶える。
そう、決めていた。
だが、この馬鹿は魔王の心を乱し、死への恐怖と未練を思い出させようとしている。
スザクはそんなC.C.の視線を受け流し、ゆっくりと立ち上がった。

「それなんだけどさ。ゼロレクイエムのシナリオって、少し変えられないかな?」

裏切りの騎士はニッコリと笑顔でそう言った。




「陛下、あの寝室にはまだ機材もありますし、お休みになられるなら僕の部屋使ってください」
「ロイドの部屋を?」

入浴を終え、傷の手当を受けているルルーシュにロイドは提案した。
ルルーシュの体の傷は予想より多かったが、幸い深いものは無く、あの空間には雑菌が存在していなかったことが幸いし、化膿したものは無く出血も止まっていたため、軽い手当で十分事足りた。
だからこのあとは、ベッドでゆっくりと休むだけ。

「はい、スザクくんも今から休むでしょうし、ジェレミア卿にも休んでもらわなければならない。となると僕の部屋がいいと思うんですよね」

セキュリティもしっかりしてますしね。
まさか陛下が僕の部屋で休んでいる、なんて考えないでしょうし。

「ロイドはどうするんだ?」

俺はそれでも構わないが、それだとロイドが使えないだろう?

「僕とセシルくんはこれから片付けもありますし、当分休むことはありません。セシルくん、僕の部屋の合鍵渡すから、たまに陛下の様子を見に行ってくれるかな?」

ロイドは自分の部屋の鍵を取り出すと、合鍵を外しセシルに手渡した。

「え?え?ロ、ロイドさんの部屋の、合鍵っ!?」

セシルは驚きと戸惑いと、喜びの声を上げながら、その鍵を震える手で受け取った。

「何?何か問題ある?」
「い、いえありません!」
「じゃあ、陛下、さっさと移動しましょうか」

あの暴走騎士が戻る前に、ね。
そういうと、ロイドはナイトガウンを羽織ったルルーシュを促し、挙動がおかしくなったセシルとともに皇帝の私室を後にした。
当然、プログラマー4人には、ルルーシュがどの部屋で寝ているか絶対にあの騎士には話さないよう念を押すことを忘れなかった。

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